八王子の景色   名綱神社の湧水                                              [戻る]



暁町の名綱神社の入口近くに湧水がある。
湧水点は石組みで囲まれ、傍らに小さな石祠が祀られている。

江戸時代末期の地誌、「武蔵名勝図絵」には次のような記述がある。

名縄の森
中野村にあり。郡中に同名四、五ケ所もあり。ここは横山庄八王子へ
浅川をへだてたる地なり。この森は村の東にて、東南の郷界なり。
一名は薺の字を用い、又、名綱とも書けり。松杉その余の雑木の森
なり。森の内に古碑一基ありて、土人は薺権現とも称す。同所に僅か
なる清泉あり。これを薺の池と号す。


湧水のある名綱神社の背後は安土(やすど)の山の崖となっている。
有名芸能人の住宅も建つ安土山は八王子市内を一望する好展望の
丘陵だが、昔は鬱蒼とした森であった。
そこに湧き出す水は、村の人々にとって神聖なものであり、信仰の地
として大切に守られてきたに違いない。









八王子市内の地理や歴史に通じた清水正之氏の著書には、この湧水
に関して次のように書かれている。

名綱神社
名綱神社は中安のすぐ北側、百メートル程上った左手にあり、中野町
にある数少ない神社のひとつである。
こんもりとした森の中に小さな社がまつられ、附近の人々からは名綱
さまと呼ばれている。昔は薺権現とも云われていたという。
以前は社前の下から湧水が混々(ママ)と湧き出ていて、この水を飲ん
だ婦人は乳の出がよくなると伝えられている。

(清水正之『八王子 中野わが街』より)

湧水の水は、こうした民間信仰の対象でもあったらしい。