八王子の景色   本丸(3)                             [戻る]


本丸は上下2段の曲輪で構成されている。
下段には2か所の虎口や井戸跡が残っており、そこから上段に進むと
やや異なった趣が感じられる。
まず、南には霞神社、北には金毘羅社と2つの神社が鎮座する。
そして、曲輪の北端に立つと、そこには絶景が広がっている。
足元は切り立った崖で、眼下の滝地区の家や田んぼが見え、その先に
秋川と多摩川の合流点が見える。




















本丸上段曲輪に鎮座する金毘羅社。

本丸上段曲輪の北は急角度で落ち込む崖となっている。
西は、広い腰曲輪があり、さらにその先にも数段の曲輪がひな段状に
続いている。
南は本丸下段曲輪、東は向かいの中の丸との間に深い堀底道が通る。

金毘羅社の横から腰曲輪を抜けて、出丸へと通じる道がある。
本丸と対峙する出丸は、本丸と連携して北の多摩川方面から攻め寄せ
る敵に対する攻撃をする。

本丸の周囲には土塁が残っている。















北端から見る景色。
正面に(北側)から流れる多摩川と左(西)から流れる秋川との合流点が、
左方にはわずかに高月城跡が見え、その奥に秩父の稜線が続く。
多摩川の向こうには二宮、福生などの町が広がっている。

多摩川の水運と川越道などの街道を抑えようとした北条氏の意図が理解
できる。この景色は江戸時代の地誌書「武蔵名勝図絵」にも描かれている。

高橋源一郎氏は大正後期から昭和初期のこの景色をこう評している。
今は此処に琴平社と霞神社とが祀られてある、此の琴平社の前面こそは
臨望頗る広濶、恐らくは東京近郊第一の勝景であらう。試に此処に立って
四方を眺むれば、、眼下には多摩、秋川両川の河原があくまで広く開展し、
其前面直ちに拝島、熊川、砂川等村々の森木立を眺め、(中略)また東北
に当たりては武蔵野の大平野の彼方に、狭山六道の松が手に取るに如く
に並列して居るを見る。

(高橋源一郎「武蔵野歴史地理 第五冊」有峰書店)