八王子の景色   井戸曲輪と坎井(かんせい)                       [戻る]


中の曲輪から馬冷やしへと下るとすぐに井戸がある。

手押し式の井戸を押してみると澄んだ水が流れ出るので、井戸は使える
状態にあることが判るが、この井戸は八王子城築城の際に造られたもの
である。

それが判るのは、この曲輪の南の崖に残る石垣である。
ここから少し道を下ると、飲み水確保に必要不可欠な井戸曲輪の崩落を
防ぐための石組みが観察できるので、この曲輪が重要であることが判る。

















この井戸の特徴は、「掘った井戸」ではないということ。
中の曲輪にある井戸は「掘った井戸」であるが、これは「水を溜める井戸」
である。

崖面に深い穴を掘り、その底や周囲を粘土などで覆う。
そして崖から浸み出す水をそこに溜めて利用するという珍しい形式の井戸
なのである。
中の曲輪の井戸は規模が小さいため、多人数分の水が確保できないため
にこの井戸を造ったものと考えるが、山城における水の重要性を感じる。

井戸には「坎井(かんせい)」という呼び名もあるが、いつの頃からこの呼び
名があるのかは不明。
以前はここに「坎井」を解説していた表示板があり、また井戸は小屋掛け
の釣瓶井戸であったという。(参考:椚国男『戦国の終わりを告げた城』)